超次元伝説ラル ラモー・ルーの淫宴



第1話 仕組まれた誘い



 いつしか人々は明けぬ夜を恐れるようになった。

 たとえ月明かりが地上を照らし、星々が夜空に煌めこうとも、決して平穏な営みを与えてくれない。それがこの星に住む人々の共通した認識だ。

 突如として現れた侵略者ラモー・ルーによる蹂躙を人々はまだ鮮明に覚えている。

 その当時の光景を知らない幼い子供達も親に聞かされ、残された昼の世界が夕焼けに染まると急いで家路につく。

 夜が明けぬ大地が広がるに連れて人々の生活の場は失われていき、かつて平和そのものだったラルの星にはもはや安息はない。

 他の天体から現れたラモー・ルーとその配下の者達に蹂躙され、恐怖による統治によって人々から不安が消え去る日は一日たりもなかった。

 国民を守るべき王族も今では無力だ。王や王妃は10年程前に殺され、その血縁者達も同様の運命を辿った。

 唯一の生き残りであり希望とされた王女もまた囚われの身となってしまい、人々は古(いにしえ)の伝説に縋るしか希望は残されていなかった。

 四つの月が並ぶ刻(とき)に一人の剣士が現れ、強大無比な力を宿した剣をもって悪を滅ぼすというが果たして――!

 今宵は伝承通りに月が四つ並んでいるが夜が明ける兆しはまだない。















 侵略者ラモー・ルーにとってラルの星は手中に収めたのも同然となり、今となっては抵抗する者はほとんどいない。

 逆らう者はことごとく惨殺し、僅かに残った抵抗勢力も無力化しつつあった。

 もはや興味となるのはこの星に伝わる伝説の剣だけ。但し、その所在は未だ不明だ。

 唯一の手懸かりとして捕らえた王女ユリアはどのような辱めを受けても、手にした者に強大無比な力を与えるという
 “リバースの剣”の所在を教えようとしない。

 連日連夜犯されようが、眼前で彼女に使える侍女達を犯してみても口を割ることはなかった。

 たとえ慟哭の涙を流すことになっても、王女ユリアはリバースの剣の在処を教える事だけは頑なに拒んだ。

 だが思わぬ所から手懸かりを得た。ゴモロスの神殿にいる一人の少女がその剣を手にしたという。

 そして思惑通りにこの宮殿に誘い込むことに成功したのはつい今し方のことだ。少女はまもなく目の前に姿を現すことだろう。



「フフフ、さあ早く来るがよい。存分にもてなしてやろうではないか」



 ラモー・ルーにとってリバースの剣を手にすることはもちろん、宮殿の薄暗い回廊を駈ける少女もまた尽きぬ欲望の対象だった。

 ポニーテールに結った長い金髪を揺らす矮躯はまだ幼さが抜けきれてなくても、女性としての魅力を十分に備えている。
 年頃は王女ユリアと同じぐらいだろうか。

 破損した赤いビギニアーマーから覗く胸は小ぶりながらも形よい。括れた細い腰に肉付きがよい臀部は均整がとれてそそるものがある。

 これまで王女や侍女達を散々なまでに弄んだからこそ新鮮な獲物は願ってもないと黒いローブを纏った侵略者は紅い双眸を妖しく輝かせてほくそ笑む。

 まして少女は嗾けた配下の黒騎兵達との戦闘で剣を手放して無防備。強大無比な力なくしては万が一にも取り逃がすことはない。

 欲したリバースの剣はあとで配下の者に回収させれば済むからこそラモー・ルーは遠見の魔術で少女の身体を隅々まで視姦しながら待ちわびる。



「伝説の剣士とやらも剣を失えば恐れるに足らぬ非力な小娘。しかし選ばれし者ならば股座から滴る蜜は格別であろう。どのような味がするのか楽しみだ」



 一定の間隔で配置した松明による誘導に少女はまだ気がついていない。何一つ疑う様子もなく道しるべに従っている。

 少女を誘き寄せるラモー・ルーの企ては思惑通りに進んでいる。結果も望むものになるという確信がある故に己の欲望を満たすことしか眼中にない。

 無慈悲なる侵略者の紅い双眸は、いつしか欲望に溺れた卑しい目つきに変わっていた。















 松明が延々と並ぶ薄暗い回廊は静まりかえり、ひんやりとした生臭い風が緩やかに流れている。そこをどこまで走っても先に見えるのは闇だけ。

 振り返っても背後の松明が消えだして闇に溶け込み、もはや引き返すのは困難を極めることだろう。

 膝まで届く長い金髪をポニーテールに結った少女はたった一人で当てもなく走り続けていったいどれぐらい経っただろうか。

 自分自身ですら分からなくなれば不安を色濃くした面持ちでいるのも無理はない。

 唯一の武器だった剣を失った今の状況で、ラモー・ルーやその配下の黒騎兵達と遭遇してしまえば結果は目に見えている。
 しかもその剣こそが伝説の剣だという。

 赤いビギニアーマーも左胸の部分が破損して防御が心ともない。

 左胸を保護していたのは白い布一枚だけだったので防御に関して大した差はないにしても、乳房を露出させたままだ。

 左腕に嵌めた黄色い羽根が付いている赤い腕輪もまた盾の役目すら果たさないだろう。



「どうすればいいの? ペルルもいなくなっちゃったし、剣も無くしちゃった」



 走りながら少女は思う。

 自分一人でいったい何が出来るというのだろうか。ゴモロスの神殿で出会ったペルルという元々は人間だった小さな竜が
 せめて一緒にいてくれてさえいればと。

 自分はラモー・ルーを唯一倒せるリバースの剣に選ばれたとはいっても所詮ただの村娘。キャロンという名を知っているのは同じ村の人々や、
 交流がある他所の村の人達ぐらい。

 あとはペルルというはぐれた相棒だけだろう。

 ゴモロスの神殿にあった水晶が見せてくれた侵略者の非道な振る舞いに憤りを感じても、キャロンはラモー・ルーを倒そうなどと考えていない。

 ここに囚われている王女や侍女達を助けたい一心に突き動かされただけなのだ。

 水晶に映った光景が現実ならば今頃、若い娘達はラモー・ルーの辱めを受けていることだろう。

 もしかすれば自分と年齢が近いと聞く王女ユリアも同じように凌辱されているかもしれない。

 そんな彼女達を助けることができればいいと思っても、やはりたった一人だけでは不安で心細いと感じてしまい、自然と涙が零れてしまう。



「どうすればいいの? 王女様~~っ、いたら返事して下さ~~い」



 そもそもキャロンがこの宮殿に入り込めたのはただの偶然に過ぎなかった。

 魔城と呼ぶに相応しいこの宮殿に入り込む前の戦闘でも呆気なく飛行マシンを破壊され、森の木々が真下に見える高みから自らも落下して
 怪我を負うことすらなかったのも奇跡という幸運に助けられただけだ。

 故に今も王女達がこの建物の中の何処に囚われているのかまったく知らない。少しでも視界が開けそうだと思った場所を選んで
 走りまわっているに過ぎなかった。

 単純極まりない思考で松明が灯された回廊を選ぶだけでも危険極まる行為にも拘わらず、大声で呼びかけるキャロンはあまりにも無防備で、
 ビキニアーマーと同じ材質の赤を基調にしたロングブーツで石の床を大胆に踏み鳴らす。

 これまでラモー・ルーはおろか配下の黒騎兵達と遭遇しないことを何一つ不審に思っていないからこそ誘いこむ罠だと気がついていない。

 王女達を絶対に助けてみせると健気に思いながら涙を拭うキャロンに対する次なる誘いは程なくして訪れた。



「――ん!?」



 今まで一度も足を止めなかったキャロンがどこからともなく聞こえる声に反応して不意に立ち止まる。

 艶めかしい若い女の声がする方に目をやると松明の道しるべが続く階段はあらかさまな誘いだった。

 しかしキャロンは逡巡することなく回廊よりも暗い階段に向きなおると表情を引き締めて駆け上がっていく。

 緩やかな螺旋を描く階段は石壁が迫ってきそうな狭苦しさがあり、足下がよく見えない視界の悪さもあってどこまでも果てしないように感じさせる。

 ロングブーツが踏みしめる金属音が回廊を走りまわっていた時よりも響き、遙か上の方でも反響しているようだ。

 キャロンが飛行マシンを破壊されたのが宮殿の中腹ぐらいであったなら、この階段はそれ以上に続くことも考えられる。

 とはいえ、艶めかしい声は確実にこの上から聞こえ、次第に大きくなっているのも確かだ。

 つまり少なくともそこに誰かが囚われており、辿り着くまでそう時間は掛からない事を意味していた。



「やっぱり女の子の声はこの上だわ。でも誰なんだろう。もしかして王女さまなの。だったら急がなきゃ。王女さま~~、すぐ行きますね~~ぇ」



 緊張感に欠けた声音であったが、無意識に自分を鼓舞していたことによるもの。不安な気持ちが消えたわけではない。

 もちろん囚われの王女や侍女達の安否は常に気懸かりに思っている。

 ゴモロスの神殿にあった水晶で見たような光景が王女の身にも起きるかもしれないと考えれば一刻の猶予もない。

 たとえ不安が完全に抜けきらなくても足が竦まなければ大丈夫だと己を叱咤してキャロンは上へと目指す。

 しばらくして階段の先には木製の大きな扉が見えた。

 左右両方の開き戸を支えながら門として機能させる蝶番(ちょうつがい)は不気味な装飾をされ、それを見るキャロンに緊張が走る。

 だが金髪の少女に躊躇いはなかった。扉の前までくると両手を前に突きだして精一杯の力で押し開こうとする。



「くっ、うんんっ!」



 小柄な体躯の力ではそう簡単に開かない筈と思われたが――果たして、大きな扉は呆気なく軋む音を響かせた。キャロン自身がその手応えに驚く。



「ああっ!」



 いや、それ以上に驚いたのは目の前の光景だ。月明かりだけが頼りの奥まで見えない広間には鎖で両手を吊された一人の少女の姿があった。

 少女は何も衣服を身につけていない。意識がないらしく、吊された鎖に身体を預けて頭(こうべ)を垂れている。

 足首に枷を嵌められ、辛うじて爪先が床についている状態だ。

 もしも状況が違っていたなら同性でも目を奪われそうな美しい裸体は、キャロンの視線を浴びてもピクリとも動かない。

 いったいこの少女の身に何が起きたのか。その結論をキャロンが見出す前に少女の紫色の長い髪が目に飛び込む。

 正確にはその頭髪ではなく、赤い宝石がはめ込まれた黄金のティアラだ。それこそ王族の証であり少女の身分を示すもの。

 このラルの星で黄金のティアラを身につけている人物はたった一人しかいない。

 たとえ一度も姿を拝謁することがなくても、彼女こそが王女ユリアであると決定づける証であった。















 吹き込むひんやりとした風が全身に感じられ、生臭い臭気が鼻腔を擽って意識の覚醒を促す。

 それをユリアは望んだわけではなく、無理矢理に覚醒させられたというべきだろうか。

 深い眠りにおちたことにしても摩耗した精神が限界を迎えたわけでもなく、また自ら選んだわけでもいない。

 この宮殿の主に掛けられた魔術で深い眠りに誘われた結果に過ぎなかった。

 悪しき魔道士ラモー・ルーの魔術は自力で解くのは不可能に近い。それが解けたということはラモー・ルーが倒されたか、
 あるいはラモー・ルー自身が魔術を解いたことになる。

 まだ朦朧とする意識はそれを熟考する意欲を与えてくれない。

 人の気配を感じたユリアは、この目覚めは打倒ラモー・ルーが果たされたと願いながら意識の覚醒に逆らおうとしなかった。



「う…ううっ」



 ゆっくりと頭をあげながら目を開くと扉の向こうにぼんやりとだが人の姿が見える。

 金色の髪をした矮躯は女性で、どうやら年頃も自分と然程変わらないようだとユリアは思った。

 そして意識が明瞭になるにつれてその姿もはっきりと見えてくる。



――あの方は……



 一度も出会ったことのない少女であったがユリアには見覚えがあった。それも意識を失う直前で記憶に新しい。



――間違いない。だったら……!



 ラモー・ルーが遠見の魔術で見せた少女はリバースの剣に選ばれし者。その彼女がここに現れたのはラルの星に平和が訪れたことなのか。

 いや、違った。

 不意に視線をおとすと暗闇が周囲に広がっている。



――これは、罠!



 ユリアは瞬時に悟った。

 ラモー・ルーはまだ打倒されていない。

 眠りの魔術を掛けられる直前に悪しき魔術使いが「これから王女にはこの娘を誘き寄せる餌になってもらう」と言った言葉を思い出す。

 つまりラモー・ルーが自分の意識を強引に覚醒させ、扉の向こうで表情が晴れやかになる金髪の少女をここに招いたのだと。

 そしてユリアの心に渦巻く嫌な予感は、間もなく淫靡な宴が始まることを告げていた。















「あはっ、王女様っ! 今行きます」



 全身で喜びを表現してキャロンはユリアに駆け寄った。

 早くあの恥ずかしい格好をなんとかしたい。手足の戒めを解いてあげたいという思いが彼女に警戒心を抱かせなかった。

 暗い広間を注意深く観察していればユリアの周辺を闇が取り囲んでいることに気がついたことだろう。

 この場にラモー・ルーが居ないことに警戒して辺りを注意深く観察していたかもしれない。

 しかしキャロンはそんな考えに至らなかった。一目散にユリアの元へと近づく。



「来ては駄目、罠です!」



 ユリアが咄嗟に叫んで制止したが時すでに遅かった。

 駆けだした勢いはすぐに止まらず、踏み出した一歩が闇を強く踏みしめると泥のように跳ね上がり、赤を基調にしたロングブーツの爪先から
 足首へと絡みつく。



「あああっ!」



 驚きの悲鳴をあげるキャロンの前に闇が高く聳える。さながら漆黒の壁をもって金髪の少女と囚われの王女が接触することを阻んだかのようだ。

 しかし広がった闇はユリア奪回を阻もうとせず、むしろ片脚を封じたキャロンに向かって襲い掛かった。



「――っ!?」



 視界を遮る漆黒の瀑布を前にして金髪の少女は絶句し、驚愕の表情で見上げたまま立ち竦む。恐れを感じるというよりも、
 その圧倒的な存在に思考が麻痺したかのようだ。

 闇が切り裂かれたかのように霧散しながら取り囲んできても、キャロンは身を庇うことも許されない。

 無数に分裂した漆黒の泥が大蛇の如きうねりで四肢に絡まり、両手を引っ張られるまでまったく反応ができなかった。

 捕まったと意識したときには身体を持ち上げられていたのである。



「くっ……んんっ!」



 咄嗟に足掻いて振り解こうとしても四肢に巻きついた闇は見た目以上に強靱でビクとも動かない。

 表面の柔らかさとは違い、鋼のような硬さを感じさせるそれは少女の力で引き千切ることなど到底不可能。

 ただ強靱なだけでなく、しなやかさを備えたソレはまだ本気で巻きついていないとキャロンは感じながらも懸命に足掻こうとする。

 その一部終始を見ていたユリアもまた蒼白な表情で叫ぶ。



「剣士様ぁぁっ!」



 悲痛な声音は嘆きのように聞こえた。

 一方のキャロンはユリアの叫びが聞こえていても意識するどころではない。自力で振り解くことができないと分かっていても抗うことに必死だ。



「いや~~ん、降ろして~~ぇ!」



 言葉が通じると思っていなくても、一縷の望みを繋ごうと解放してほしいと訴える。

 しかし闇色の拘束してくるモノ達はキャロンの首にも巻きついて無言の返答をもって突っぱねた。

 呼吸に支障がきたす程に息苦しさはなくても、二重に巻きついて黄金の首輪を覆うことで手放さない意思を示した時だ。

 キャロンを拘束したモノ達の首謀者が突如として目の前に姿を現す。



「あっ! あぁ、ラモー・ルー!」



 漆黒のローブを纏う人物を見てキャロンは直感的にその名を口にする。

 紅く鋭い双眸から感じられる威圧感はたとえ名を馳せた騎士であっても醸し出すことはできないだろう。

 悪魔のような2本の角を彷彿させるフードで顔面を覆いながらも、邪悪な本質を隠そうとしないからこそ確信があってのことだ。



「如何にも。今日はようこそ私の宮殿へ」



 主賓を招くかのような礼をもって遇するラモー・ルーの態度を見たキャロンは自身の直感が正しいと思った。

 礼儀を弁えているようでありながら戦慄させてくる威圧的な雰囲気までは隠しきれていない。

 ラモー・ルーの背中を見るユリアもまた同じことを感じたようだ。

 いや、彼女は後に起こるであろうことを即座に予期したのか、何かを言いたげに唇をなわなわと震わせて驚愕の表情を一変させた。

 恐れよりも悲壮感が漂う眼差しを漆黒の背中を突き抜けて金髪の少女へと向ける。

 しかし彼女にできたのはそこまでだった。ラモー・ルーの圧倒的な存在が出掛かった言葉を飲み込ませたのだ。

 もう一つの本性を剥きだしてゆっくりと前に歩みだす漆黒の侵略者を為す術もなく見ているユリアにキャロンは気がついていないが、
 王女の視線を感じるまでもなく本能的に今から何をされるのかと悟っていた。



――エッチなことされちゃう!



 逃れたくても逃れられないキャロンに漆黒の手が迫る。



「たった一人でここまで来るとは、良い度胸だ」



 瑞々しいまでの肌をした太股に手を伸ばすラモー・ルーに対して、キャロンは嫌悪感を顕わにしてかぶりを振り、拒絶の意思をもって罵るのが
 せめてもの抵抗だった。



「いや~~ん、さわんないで! エッチ、変態っ!」



 卑しい手つきが金髪の少女に鳥肌を立たせても、欲望を抑えようとしないラモー・ルーに憤りを感じるのは彼女だけではない。

 その行為を見る囚われの王女もまた同じ気持ちだったようだ。瞳に覚悟と強い意思を宿らせて闇色の背中を目で射貫く。



「私をどうしようとも構いません。その方を離しなさい!」



「静かにしておれ」



 恫喝じみた声音をもってユリアを黙らせるラモー・ルー。その紅い双眸はキャロンの可憐な顔だちから小ぶりな胸、そして縦長の小さなお臍へと移り、
 更に視線を股間へと移す。

 当然ながらその視線はキャロンも感じとっている。故にラモー・ルーが右手を目の前に翳して魔力を籠める動作を見ていなかった。

 漆黒の魔道士はキャロンの反応を楽しんでいるからこそ、次なる行動は籠めた魔力をもって赤いビギニアーマーを砕くことで実践した。

 そして甲高い破壊音と虚を突かれたキャロンの悲鳴が重なる。



「いや~~んっ! うぅっ……恥ずかしいぃ」



 今まで左の小ぶりな乳房を顕わにしていたキャロンであったが、流石に裸を晒すことには抵抗があった。驚きの表情がすぐさま羞恥に染まって
 頬を赤らめる。

 もう酷いことをしないでほしいと訴えるつもりで紅い双眸を恐々としながら見てしまったことがラモー・ルーの思惑とも知らずに――



「そう……落ち着いて……力をぬくのだ」



 目の前の双眼が妖しく輝きだしても、愛らしい瞳は驚きに見開いたまま逸らすことをしなかった。

 これが心を封じる魔術の発現だと知らず、伝説の剣に選ばれし少女は己の身に起きたことが分からないまま強張った全身の力を抜いていく。

 見かねたユリアがラモー・ルーの意図に勘づいて咄嗟に伝えても、もはや蝕まれつつある心にまで届くことはなかった。



「駄目! 目を見てはいけません。心が魔術で封じ込まれてしまいます」



 王女が涙ながらに悲痛な声で叫んだときにはキャロンの瞳からは光が消えていた。

 夢うつつな表情でラモー・ルーを見つめるだけで、つい今し方までの抗う素振りが一切ない。

 目の前の恐るべき魔術使いがほくそ笑みながら侵略者から凌辱者へと気質を変えても、眉をピクリとも動かすことはなかった。

 目つきを卑しい欲望に染めたラモー・ルーによる凌辱劇はついに幕が開かれる。